最悪の予感 パンデミックとの戦い

「最悪の予感」(マイケル・ルイス著)をご紹介しよう。

マイケルルイスと言えば、「マネーボール」や「世紀の空売り」などの著作が有名な作家さん。

経済の実態を鋭く観察し、日本でいえば城山三郎のような作風の著作が多い。

2019年暮れにはじまった新型コロナウィルス(COVID-19)のパンデミックには、さまざまな専門家や政府機関がかかわるが、この物語は、その中心となるCDC(疾病対策センター)が機能しないことが描かれる。

2020年、残念ながらアメリカは、第2次世界大戦の時よりも急激な平均寿命の低下が起きた。

明らかなコロナ敗戦だ。

どうして政府や、政府機関がうまく機能しないのか?

日本でも、菅政権が自ら崩壊したように、適切に機能したとは言い難い。

いまテレビでは、小松左京原作の「日本沈没」が放送されている。

共通なことは、「危機対応」。

この著作でもドラマでも、危機の本質を把握している人は、立場を維持する人々により中枢から省かれていく。

新型コロナウィルス対応のトランプ政権でも、同じことが起きた。

日本で「8割おじさん」と呼ばれた西浦博教授も、そんな境遇に陥った。

どんな危機においても「カネを稼ぐこと」に突き進む経済界は、コロナ対策に必要なマスクや消毒液などの分野でも、金儲けに走る。

これは、アメリカでも日本でも共通のことだ。

このノンフィクションの主人公である行政官は、「危機対応そのものをビジネスとして起業し、ひとびとの命を守るビジネス」へと舵を切っていく。

「日本沈没」のドラマはこれからどうなるかが楽しみだが、驚くほどストーリーがこの本に似ていると感じるのは私だけだろうか。

さて、21世紀に入り、災害やテロ、パンデミックなど、危機が多発する時代になった。

本質的な危機対応ができる民間企業を育てる必要性を感じさせるこの著作は、地球温暖化の世界を生きるわれわれが、どのような心得で暮らしていけばよいかを考えさせてくれる1冊だ。

岸田首相が考える「新しい資本主義」がこういうことなのかどうかは、いまのところ首相以外の誰も知ることができない。

それぞれにとっての「新しい資本主義」を、そろそろ考えなくてはならない時代が来たようだ。